2022.4.11
|
琉球新報 美術月評 2022年3月 黄金忠博 |
---|
南蛮焼知念窯 一宮侑遺作展
(2/11~3/13 那覇市立壺屋焼物博物館)
この展示会は、元々個展として準備していたが、残念なことに遺作展となってしまった。コレクターから寄贈された作品群により実現した。東京芸大で彫刻を学んだ一宮は、常にフォルムを重要視していた。ロクロ成形では、表面に下から上へと時間軸が現れるがそれを嫌い、削ることで厳しくも凛とした存在感あるシャープなフォルムの作品に作りあげていた。また理想的な焼き色を出すために釜焚きには適さない雨天に行なうなどして、探究を続けていた。その作陶姿勢は半世紀にわたり常に高められてきた。今後の更なる展開を見ることができなくなったのは非常に残念でならない。故人の冥福を祈るばかりである。
第73回沖展
(3/19~4/3 ANA ARENA 浦添)
新型コロナの感染拡大に伴い、中止に追い込まれていた春の芸術の祭典が3年ぶりに帰ってきた。戦後米軍統治下から始まり73回もの回を重ねてきた沖展は、文化復興の象徴的存在であることが明確な事実であろう。今回もこれだけの出品点数があったということから、正に重要な支えだったことが理解出来る。そして沖展が開催されたことにより、コロナ以前の文化的生活が戻ってきたとうれしくも思う。 しかし必ずしも展示環境は良いとは言えない。展示数の多さだけでなく、作品を照らす照明がないため、作品が映えない。また会場の暗さが、観客の疲労度を高めているように思う。特に染織作品の展示環境は非常に悪く、作品の良さ、美しさが半減しているように思う。観客により良く見せる対策を講じて欲しい。
つじのえみり展
(3/1~4/3 県美ミュージアムショップゆいむい)
女性の下着とユニコーンをモチーフに描かれた絵画作品は、ビビッドな色彩によりポップに表現されている。絵画作品だけでなく、マスキングテープや缶バッチなど様々なグッズに展開させていることで、作品をより身近に感じさせてくれる。その色彩感覚はテレビやディスプレーのようなRGBの加法混合色に近い独特なものである。そのため印刷で再現することが難しいが、印刷技術の発達により色彩の再現力が高くなってきているという。面白いことに、美術館の中にあるミュージアム・ショップでの展示は、販売が可能で作品を購入出来るという意識付けが出来ることだろう。作品を見るだけでなく購入所有することによって、より豊かな生活を演出することができるという提案を美術館が示していることは、社会に対してアートマーケットの構築拡大といった役割を担っているといえる。ミュージアム・ショップでの展示会が今後も広がっていってほしい。
芸大・美大合格者作品展
(那覇造形美術学院 3/25~4/15 Gallery&Space HOLON )
芸術家への登竜門である芸術大学、美術大学は、入学試験に実技試験が課せられるが、その技術レベルや出題方法など専門性が非常に高く、高校までの授業だけでは得ることが非常に難しいといえる。この会は、それらに合格した受験生達の作品を一堂に集め、芸大・美大入試が目で見て理解出来る展示会となっている。テクノロジーや価値観が大きく変化してきている現代においても、相変わらずデッサンの出題がされる。それは、ものの本質を見抜けるような観察眼を育む必要があるからと言えるだろう。また理解したことを的確にアウトプットできる技術も必要で、この技術習得には時間がかかる。それらの準備を経て、大学にて芸術家としての姿勢が徐々に養われていく。このことは、いかにテクノロジーが進歩したとしても、人間の感覚に関わることで代替えは出来ない。しかし一方で、多岐にわたる表現方法がある芸術分野で一部的な表現方法だけで測ることは、新たな表現価値においては評価出来ない状況にもなっているのではないか。果たして、今の教育システムが新しい芸術文化の創生に繋がっているのか疑問である。教育全般に関わることだが、時代と教育システムの擦れに歯がゆさを感じせざるを得ない。
漆工房・前田貝揃案創設展「玉座-THRONES AS A FRAME-」
(3/26-4/3ギャラリーアトス)
沖縄漆芸の第一人者、前田孝允の後を引き継ぎ、前田比呂也、彬、佳奈による現代の貝摺奉行所と言えるこの活動は、芸術運動の一つとして、また漆芸という表現媒体の新たな可能性を示した展示会であった。伝統的漆芸技法による花器や螺鈿盆などの作品から、抽象的な乾漆作品、またそこからイメージされたコラージュ作品、さらには日常雑貨やTシャツなど、一つのブランドとして様々に展開していく様を見せることで、伝統工芸と現代美術の共存の方法を示しているようである。この共存は、生活様式、美意識の復興に繋がり、新たな芸術表現への展開と可能性を感じさせる。また伝統を継承することの在り方を示しているようにも思える。失ってはならない文化の一端を担うべく使命感をもって立ち上げたのだろう。今後の活動に注目し、大いに期待したい。