2021.12.30
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琉球新報 美術月評 2021年4月 黄金忠博 |
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豊かな土壌を描写
微と生きる 微に生きる 高田陽子展vol.6
(4/1〜29 rat&sheep)
日本画家、高田陽子の6回目の個展は、再開させた家庭菜園の硬くなった土を「動脈硬化を起こした社会」と例え、自ら描く絵画は養分の持つ種であり、まいた種(絵画)は生命であり、発酵分解させて豊かな土壌に変化させていく微生物でもあるという。今回、岩絵具を使用して点描を緻密に積み上げていく表現に加え、シールを使ったマスキング技法や大きめのストロークによる大胆な表現を組み合わせることで、新たな表現を図った。また蓄光塗料を使った描写表現は、昼間には見ることはできないが、夜に光りだすことで、すぐ見ることができない「未来」を暗示させたと言う。豊かな土壌には豊かな実が実る。彼女が描く目的は豊かな土壌づくり、つまり豊かな社会づくりと言えるだろう。絶えず新たな表現の可能性に挑戦していく高田の今後の展開に期待したい。
命問い掛ける展示
母子像展
(4/15〜5/31 佐喜眞美術館)
この展示会は「命を問う展覧会にしたい」と佐喜真館長は言う。出品作品のほとんどが白黒表現作品で、強いコントラストが見る者を強烈に突き刺す。浜田知明の「初年兵哀歌―風景」は、いかに戦争というものが人を狂わせたのか、を何気ない風景の中に溶け込んだ一シーンとして冷静に描き出していることが衝撃的である。ケーテ・コルビッツの遺作である「種子を粉に挽いてはならない」他二十点の作品から卓越した描写力と画面構成によって痛烈な戦争への批判メッセージと、決して失われることのない母子の愛情と人間性が表現されている。この「母子像展」では人間性を崩壊させる「戦争」というものに対して、「人間性」を崩壊させてはならない、守らなければならないと強く訴えかけるのである。
純粋な感性を表現
星々からのささやき なかんだかりたつろう
(4/29〜5/5 アートギャラリーソラノエ)
初の個展会場内は、作者の優しい表現で満ち溢れていた。描かれるイメージは夜、突然浮かんできてスケッチするという。このスケッチが基になり本画や絵本につながっていく。展示されていた多くのスケッチには、イメージの湧き出る瞬間を捉えているような感覚があり、生々しさが伝わってくる。そこには、子どもの頃に想像した世界や、物語の一シーン、架空の生き物といった純粋な感性で作り上げた世界観がある。アクリル絵具や水彩絵具などで彩色されたイラストレーションは、エッジも色彩も柔らかくその感性をよく表している。エッチングやリトグラフといった技法を取り入れることで新たな(表現の広がりを)可能性を感じる。今後構想している絵本があるという。その物語とは、彼自身の人生のことではないだろうか?その絵本の発表を心待ちにしている。
時代を照らす紅型
月の徒然 祈りのカタチー縄トモコ
(4/17~25 ギャラリーアトス)
県内外で精力的に活動している紅型作家、縄トモコによる個展。昨年予定していた作品集『月の徒然』出版記念の展示会となる今回は、紅型が非常に身近な存在と感じさせてくれた展示会であった。生活に密着した紅型作品は、例えば月の満ち欠けをモチーフに草木を構成した額装作品に卓越した構成力を感じさせ、屏風作品「祈りのカタチ」は、古典柄である鳳凰や蝙蝠柄を大胆に配置し、迫力ある画面を作っている。 この作品は、首里城焼失やコロナ感染拡大による世界的に起こったパンデミックなど、暗い出来事ばかりのこの時代に、明るい太陽のように照らす存在として表現したというその意気込みにも感服する。フランスや韓国などで購入した布に染められた作品は、コロナ禍で旅行に自由に行けない現状から、作品で旅する気分を味うといった趣向で作られた。装飾されたアンティークな布にコラボレーションして、染色された草木のデザインが非常に美しく調和している。全体として柔らかな色彩に、沖縄の紅型にはない作家の個性が表れている。今後の展開にも注目していきたい。
60年の仕事集大成
祝嶺恭子の染織展 琉球の織色に魅せられて
(4/20〜25 那覇市民ギャラリー)
沖縄の染織を硏究する織物作家であり、沖縄県立芸大などで指導者でもあった祝嶺にとって沖縄で初の個展となる本展は、六〇年分の仕事の集大成であり、まさに圧巻であった。今回この展示会では、YouTubeと連動させ作品の解説を見聞きすることができた。これも織物の知識を拡げる手立てとして、非常に良い試みであった。経糸と緯糸の組み合わせによって出来る無数の織り色、綿密に計画されて出来上がる織文様とデザイン。一つ一つ着実に積み上げて作り上げられた織物は、究極のミニマル・アート作品のように感じる。 祝嶺は、1992年文部省在外研究員としてベルリン国立民族博物館収蔵の「琉球王朝時代の染織」の調査研究を行なった。そこで先人の織物に対しての色彩感覚に驚愕したという。ルーペで織り色等を調査して理解したことが、王国当時は経験を積むことでその織り色を会得していた。この調査研究の結果、琉球王朝時代の技法を解明、会得し、後輩に伝授する。これが伝統工芸を守る、文化を守るということであり、今に継承するということであろう。この功績は、沖縄にとっても非常に大きいと言えるだろう。