2021.12.30
|
琉球新報 美術月評 2021年11月 黄金忠博 |
---|
葛藤を生き抜く創作
能勢孝二郎「NOSÉ KOJIRO BLOCKHEAD」
(11/3(水)~14(日)Luft shop,RENEMIA)
数多くの公共彫刻で知られる能勢のおよそ30年振りの個展は、前月のギャラリーラファイエット(沖縄市)を皮切りに3会場に渡って大規模に行われた。この展示会は、能勢の思考を彫刻作品だけでなく、映像、紙のレリーフ作品、架台のアイデアスケッチなど様々な方向から読み解く一代プロジェクトとなった。同時に製作された図録もその一つであろう。コンクリート・ブロックを素材とした彫刻作品は、抽象形態、文字、と様々な形態に展開しているが、コンクリート・ブロックとの出合いが沖縄で制作することの意味性を与えてくれたと能勢は言う。しかしそれに沖縄のアイデンティティを感じつつも、逆に創作の邪魔をするといったその葛藤が、新たな作品を生み出すモチベーションになっているのではないだろうか?絶えることない創作活動は、その葛藤を生き抜くことそのものなのだろう。
空間との関係性意識
喜屋武千恵 個展『いのちのいろかたち』
(11/19 (金)〜28(日)ガーブドミンゴ)
沖縄県立美術館にて現在開催中の企画展にも出品している喜屋武の2年ぶりの個展は、美術館に展示されている大画面でパワフルに描写する作品とは相反するような、柔らかく繊細な小作品群で構成されており、空間との関係性を意識したインスタレーションといって良いだろう。天然顔料による平面作品と、和紙や古布を膠で固め彩色された立体作品が、展示空間の中で共鳴する。「インドラの網(緑青)」は、窓から差し込む自然光が顔料の質を引き出し、「みつばち2021」の作品群は朽ちた天井と呼応する。青い壁と植物と赤土で描かれた「インドラの網(赤土)」が生み出すコントラスト。作品はあくまできっかけであり、そこから派生するイメージや思考の始まりを意味するもの、つまりそれが種子なのであろう。そしてそれらが活き活きと呼吸をしている様に空間を創り出しているのである。
城壁と作品群が共鳴
Soundscape Okinawa
(11/19(金)〜21(日)糸数城址)
城内を観客が自由に動き回り、音と風景をそれぞれが楽しむ観客主体のイベントとして、昨年に引き続き開催された。前夜祭に参加したが、この日は140年ぶりとも言われる深い部分月食が偶然にも重なり、より一層の幻想的空間を体験出来た。会場は月食のおかげで信じられないほどの暗闇に包まれた。視界を奪われ、行く道を探りながら、足元を確かめながらゆっくりと先に進むにつれ、徐々に感覚が研ぎ澄まされていく。そんな中、参加アーティストの作品を見ていくと、いつも以上にものが見えてくるような気がした。自然の音をビジュアル化する上地gacha一也のインスタレーション、風や空気の流れを可視化するような児玉美咲の作品、城を情報の送受信する場として表現した津波博美、花城勉の自然の中に配置された幾つもの連なった安全ピンの作品は、植物の蔦のようにも見え、月明かりに照らされると光線のようにも見える。自然と城壁と作品とが共鳴し合い、美しい空間を作り上げていた。また虫たちの声が、スピーカーから流れるビート音に呼応する。全てが共鳴しあっているのだ。そして天空に現れた満月のなんと眩しいことか!天然のスポットライトのように地上を照らす。本来人間の持っている感覚を再認識させられたアートイベントであった。
新たな展開に期待感
SOTO OTO ART
(11/20(土)~23(火)gallery&space HOLON)
普段のデザインの仕事から離れて、個々の表現活動を展開する花木豪、上原朋真、森田光則の3人のデザイナーによるグループ展は、作品の他にテントやヤグラを設置するなど、キャンプに行くような感覚で見れる楽しい空間づくりがされた展示会であった。花木は平面のイラストレーションとテントを設置して空間をデザインし、上原は不可思議なキャラクターをイラストレーションで表現。森田は、ビンテージレコードの深い世界に入り込んで、良いものに出会えるようにという想いをイラストレーションで表現した。デジタルイラストを、キャンバス地にプリントするという新たな試みは、新たな展開が期待出来、興味深かった。花木は直接人に会い、コミュニケーションをとる事の大切さを肌で感じたという。人との出会いを断絶させたのがコロナだが、リアルなコミュニケーションの重要性を教えてくれたのもコロナと言えるかも知れない。新たな表現方法の探究、実験の場としての今後の展示活動に注目していきたい。
造形力表現力の高さ
個我の形象展
(11/2(火)〜7(日)那覇市民ギャラリー)
彫刻研究会による24回目のグループ展は、コロナの影響で8月に開催予定だったものが延期して開催された。その中で上原秀樹の海の表情を切り取った様な美しい作品は、空間造形としての表現の広がりを感じさせる。津波夏希は床に伏せる様なポーズの等身大の人体を写実的に表現しているが、その存在感の強さに惹きつけられた。よく見るとその人物像は、手や足が大きく作られていることに気づく。それにより、より存在感が増幅しているのだろう。造形力、表現力の高さに驚かされる。また玉那覇英人、平敷傑など若手作家の今後の活躍も楽しみである。