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2020.12.31
琉球新報 展評 2020年9月10日(木)黄金忠博

33人出品、つながり育む

美術の先生がつくった作品展web

夏休みの風物詩のような存在になってきた「美術の先生がつくった作品展」も、この8月で8回目の開催を迎えるはずだった。しかし新型コロナの影響でやむなく来年に延期となった。美術の先生に作品制作と発表の機会を与え、作家意識と創作意欲向上の場として定着してきているこの展示会を、このような状況下においても止めない、との思いで、web展示会という形をとることにしたという。33人が出品し、出品作品は写真作品からイラストレーション、絵画、版画、立体、インスタレーション、陶芸など多岐にわたる。 中でも知念 仁志 のデザインした「琉球王国トランプ」はすぐにも商品として販売できそうな高い完成度を感じる。また桑村ヒロシの写真、SAVA、辻野絵美利によるイラストレーション等に魅力を感じた。
インターネットだからこその利点もあった。加納斉親 の「四つのマウス遊び」はwebならではの作品で、マウスや指を使って作品を操作することで、作品と鑑賞者がつながっているような感覚を感じさせる。今後の展開に興味をそそられた。
また県内外、海外などにも発信でき、普段見ることの出来ない人々にも鑑賞してもらえることは、web展示会ならではのことだろう。
その反面、嘉数武弘、喜屋武千恵などの大画面の絵画表現は、スケール感や色彩の発色、絵肌の感覚など実物を見た時とは異なる印象を持った。鑑賞者を包み込むような大画面から感じられる体感性が伝わりにくく残念に思った。
上原秀樹 の立体作品や大中原千陽、花城勉などのインスタレーション作品は、試行錯誤の末、映像を掲載するなどしたが、空間表現や重量、存在感の表現などWEB展示の問題点を浮き彫りにしたとも言える。
しかし逆に、この画像情報だけでは伝わらないからこそ、実物を体験したい、味わいたいという鑑賞者の欲求が生まれるのかも知れない。webで美術作品を鑑賞することで現物を求める欲求が高まるのであれば、芸術・美術の本質は失われていない証拠と言えるのではないだろうか?
また、テクノロジーが発達すればするほど芸術の力は高まり、新しい芸術表現と新しい鑑賞方法が生まれてくる可能性も十分にあり得る。その芸術・美術の力を受け取るのは私たちであり、感性を絶えず磨いていなければなるまい。その感性を磨くためにも美術作品の鑑賞は必要不可欠だ。
来年の今頃には、この展示会出品者たちのリアルな作品群とまだ見ぬ新しい表現に出会えることを心待ちにしている。

加納 斉親 「四つのマウス遊び」