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展示会

琉球新報 11月美術月評                      黄金忠博

 芸術の秋といわれる通り、今月も様々な展示会が県内各地で行われ、我々の眼と心を楽しませてくれるのと同時に、沖縄という場の持つさまざまな問題に触れる機会となった。
 美しい作品に出会うと、その美しさに心が踊り、歓ぶ。その歓びは、生きていく力に変わる。アーティストはどのような時代、境遇、環境にあっても、美しい作品を作り続ける事で人々に生きる力を与えているのだと思う。その活動が、その場の生活習慣となり美意識となり、そして社会意識として構築されていく。この事が強く感じられた2つの展示会がある。

大学が擁する作家陣 県立芸大退任教員展

 その一つ、沖縄県立芸術大学所蔵 退任教員作品展(10/27〜11/4沖縄県立芸術大学 附属図書・芸術資料館)は、沖縄県立芸術大学 美術工芸学部の退任教員方が大学に寄贈した作品の展示会で、絵画、彫刻、デザインなど多様なジャンルの作品が見る事が出来た。芸術大学で指導する傍ら、それぞれ作家として制作してきた方々の作品群は、どれもきわめて質が高く、素晴らしい内容であった。とくに多和田淑子の作品は、人の手による高度で確かな技術力から生まれる織物の美しさに魅了された。またこのような素晴らしい作家陣による教育環境が整った大学で自分が学べた事を誇りにも思う。

(多和田淑子 「はなみずき」県立芸術大学所蔵 退任教員作品展より  )

存在の儚さと確かさ 仲間伸恵 熱風造形2012

 もう一つ熱風造形2012(11/17(土)~25(日)沖縄県立芸術大学 附属図書・芸術資料館)は同じく沖縄県立芸大の教員が主体となって行われたファイバーアートの展示会。この展示会趣旨も人の手によって生み出される作品により、人との繋がりを再確認するというもの。この中から苧麻(ちょま)を漉いた紙を使用した仲間伸恵の作品は、素材の特性を活かしつつも存在の儚さと確かさを感じさせる美しい作品であった。

(仲間伸恵 「Makoyama2012-2」熱風造形2012より)

絵本をリアルに体験 儀間比呂志展

 伊計島で行われた儀間比呂志・絵本の世界(11/20〜11/25)は、イチハナリアートプロジェクト の第2弾として旧伊計小中学校にて開催された。「イチハナリアートプロジェクト」とは、伊計島を舞台にアートに親しむ場所を作り出す島づくり計画だが、本展では絵本という事も有り、数多くの親子で賑わっていた。会場では、絵本に使用した原画だけでなくと版木も展示され、その制作過程も目にすることが出来、その手によって生み出される版画作品に子どもたちも興味を持って見入っていた。また作品に登場する民具や生活道具の現物が展示され、それらに触れる事により絵本の中の生活がよりリアルに実感出来る仕掛けになっていた。このような体験は、造形教育としても非常に重要な体験であり、また作品に深く入り込んでいける良い企画である。さらに絵本の読み聞かせも親子で楽しめ、アートとの境界をなくし親しみを深める事が出来る内容であった。今後このプロジェクトがさらに展開し、地域活性の為のアートの役割が高く評価される事を期待したい。

(イチハナリアートプロジェクト第2弾「儀間比呂志・絵本の世界」の展示風景)

堅牢さと繊細の対比 知念結菜

 「ART SHOW 4U_ 26°N」アートプロジェクトCOTONOHA Art Exhibition(11/18~12/9 COTONOHA ART SPACE+CAFE)は、4U_parisamsterdamというファッション・ブランドからインスパイアーを得た5名のアーティストに依る10作品の独創的な現代アートの展示会であった。その中から、知念結菜の作品は、堅牢な画表面の中に忍ばせた文字によるメッセージと繊細な描写表現の対比により、女性の持つしなやかさと強さを感じる事が出来る。ただこの展示会自体のコンセプトであるファッションとアートのコラボレーションという観点で見ると、ファッション側からの作品提示がなく、希薄さは否めない。今後の展開に期待したい。

(知念結菜作品 「ART SHOW 4U_ 26°N」より)

 作品の持つ美は具体的な形として目の前に現れる物だけではなく、その背後や意識の中に潜めている場合もある。アーティストは、見る側にその奥底に誘い込み、社会の歪みを露呈するのである。

沖縄の意識を表面化 豊里友行

豊里友行個展 「沖縄 1999-2012」(11/06~11/11M&Aギャラリー)
この10年あまりの期間に撮影された作品は、沖縄の今の空気感をジャーナリスティックな視点で捉えている。一見バラバラに見える点在する様々な場面、事件は、繋げていくと全体の社会構造が見えてくる。今現在沖縄で起こる様々な事件が、今一瞬で起こった事ではなく、第二次世界大戦、沖縄戦といった歴史背景から地層のように積み重なって起こっている事を明確に伝えている。彼の一連の写真には、ここ沖縄で生活する人々の意識が表面化されており、生きる強さをいや応なしに感じてしまう。

(豊里友行個展 「沖縄 1999-2012」の展示風景)

美術家の覚悟と挑発 照屋勇賢

 国際的に活躍する現代美術家、照屋勇賢の沖縄では2回目となる個展「照屋勇賢展 I have a dream」(11/23~12/2 画廊沖縄)は、画廊沖縄の沖縄復帰40年企画として行われている展示会で、日米安保の政治的構図が明確に視覚化されたものであった。それゆえに、批判的な意見も多いだろう。画廊沖縄の上原氏も、県民大会を報道する新聞記事を使った作品に、あの写真に刃物を入れる行為に対しての温度差を指摘している。遠くニューヨークで感じた事と、現場である沖縄とでは、事の重さ、人々の痛みの深さが違っているのではないか。しかしあえて勇賢は、自分自身に痛みを得る為にあの新聞に刃を入れたのではないだろうか?その事から作品を通して社会に説いていく、伝えていく事はアーティストとしての使命だという覚悟が見えてくるが、実は沖縄という風土、歴史、社会情勢が彼にこのような作品を作らせているとも言える。いずれにしろ彼は、常に社会の動きを敏感に感じ取り、そこを挑発する作品を発表し続けている。
(照屋勇賢作品)

 さまざまな展示会を見る事で作品は、作家の又はそれを取り巻く人々、地域、社会の思いを伝える媒体であり、より良く生きるための力を与えてくれるものであると改めて考えさせられた。
                                            黄金忠博

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