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展示会

「前近代、 近代/現代」
安里槙個展 「after the rain.」展覧会評



 安里槙個展「after the rain.」は2012年6月9日から始まり、13日まで沖縄県立芸術大学付属図書芸術資料館の2階で行われる。
 安里氏は今回の展覧会において、光や水など一貫 して不定形のモチーフを描いている。個々の作品では、色の重なり合いが画中に奥行き、空間を作り出している。これはアメリカの美術評論家 クレメント・グリーンバーグが視覚的イリュージョンと呼んだもので、その意味でこれらの作品はモダニズムの流れの中で見ることができる。 しかしはじめにも述べたように、作品において描かれているモチーフは光や水といった現実の物質であり、抽象画というよりはむしろ現実の世 界の再現-表象として捉えることができる。また安里氏は、この展覧会の序文において「肌触り」や「におい」といった触覚的な語いを使用し て自身の作品を語っている。近代を視覚優位の時代と考えるなら、安里氏のこの姿勢はむしろ前近代的なものへの回顧であり、近代絵画が失っ た視覚以外の感覚を取り戻そうとする試みと位置づけられるだろう。
 具体的な作品をひとつ、例にあげよう。<echo of the silent voice>はこの展覧会での、最も上記の特色が打 ち出された作品のうちのひとつで、5つの小さなタブローが黒い箱に並べて掛けられている。5つのピースはそれぞれ異なる色味で構成されており、中心の1つには植物のラインが幾重かに重ねて転写されている。この5つのピースが示すのは時間的連続である。真ん中のピースには、他のいくつかの作品にも見られるように刷毛跡によるブレ の表現がなされており、転写された植物のラインとあわせて振動しているような印象を与える。この振動=音が、タイトルの通りecho=反響として5つのピースに通底して響いて、時間的な幅を作品に与えている。このように作品のなかに時間的な要素を持ち込もうとする ことは、近代において排除されてきたことがらだった。この作品で明らかなことはことは、安里氏の作品は一見した上での抽象表現主義との類 似以上に、近代以前の絵画のもっていた時間的、触覚的な要素を強く示しているということである。そしてまた、現代の視点から、前近代的な 要素でもって近代を乗り越える試みであるともいえるだろう。
 もちろん画家の制作における意識は私の読解の通 りではないだろうし、現代を生きる私や安里氏は、そもそも近代絵画における喪失を体験していない。しかし好むと好まざるとに関わらず、制 作をして作品を発表するということは歴史に関わることでもある。これまで積み重ねられてきた美術、芸術の歴史に対して乗るのか、乗り越え るのか、無視するのか。いずれにしても作家はその制作上のポジションを意識的に選び取り、自身を位置づけなければならない。それはひいて は社会全体と関わることでもあるだろう。
 今後安里氏が美術の歴史、そして美術そのものと どのような関係を築くのか(あるいは築かないのか)注目していきたい。(2012.6.11.居村匠)

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