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2015.5.13
琉球新報 美術月評 2015年4月

 文化とは、その場、その地域で生まれる生活様式、習慣であると、かつて和辻哲郎は言った。日々の生活を積み重ねる事で習慣となり様式を生み、文化として形成されていく。現社会は、その文化を過去から脈々と受け継がれてきた今の形である。そこから、独自のアイデンティティーを見いだし、生み出される作品群は未来を見せてくれる希望となる。その事を考えさせられる展示会を紹介したい。

固有文化の基盤示す

「神々の古層」比嘉康雄写真展

(沖縄市 比嘉康雄アトリエ 4/21〜30)

比嘉康雄写真展では、宮古島の「竜宮ニガイ」の模様を納めた写真が、作家自宅を会場にして展示された。沖縄各地に残る祭事を写真で発表することで、あらためてこの地の特異で豊かな文化とアイデンティティを知ることになる。これらの祭事が今なお引き継がれ行われていることは、沖縄の精神性が生き続けている事を意味し、非常に興味深い。ここで見られる精神性が沖縄固有の独特な文化を形成する基盤となっている事に気付かされた。

「神々の古層」比嘉康雄写真展

平和へ信念と力満ち

「沖縄戦・読谷村三部作」「しまくとぅばで語る戦世」

(読谷美術館 4/11~5/17)

戦後70年・沖縄美術プロジェクトすでぃる―REGENERATION実行委員会が主催する、佐喜眞美術館所蔵の丸木位里・丸木俊共作「沖縄戦・読谷村三部作」の展示、「しまくとぅばで語る戦世」の写真展示・上映を行った展示会である。会場は丸木位里・丸木俊の墨彩画と比嘉豊光の戦争体験者の白黒写真で、全体がモノトーンで埋め尽くされていた。「沖縄戦・読谷村三部作」は、この地で見ることでそのリアリティーをさらに感じるが、その中で「残波大獅子」は、戦後の今、平和を発信していく信念とエネルギーに満ちている。太鼓や三線を奏でる人たち、骨を高々と掲げる人たちや、多くの老若男女が過去に起きた悲惨な出来事をめながら今生を謳歌するというこの作品に、誓いと願いと希望を抱かずにはおれない。沖縄美術の一つの潮流を代表する作品といえるであろう。この展示会を含めた沖縄美術プロジェクトすでぃるは、9月まで県内各地において開催される。

残波大獅子

創作は生活そのもの

まきやしほ絵画展『てんぱります』

(那覇市牧志 たそかれ珈琲 4/11〜26、)

日記のように、ある種自身を保つために、毎日描いているという。クレヨンや水彩など手軽な素材でその時立ち上がるイメージを具現化されていく。そのようにまれて来た作品を一同に見ると、絵本の様なあるストーリーのように感じられ、毒々しいまでの色彩が夢の中の出来事のようにも思わせる。純粋な作品創作は日々の生活そのものなのだ。

まきやしほ絵画展

2作家が呼応し調和

藤本英明&桃原寿賀子 絵画展

(りうぼう美術サロン 4/21~29)

この2人展は、ギャラリーアトスの長嶺氏のキュレーションにより実現した。桃原は上面に描き出された線が下面にシルエットを映し出す二重の構造によることで線が強調され、画面の奥行を深めている。藤本は、削り出して浮かび上がるイメージと独特な色彩により、物体とイリュージョンとを共存させようという試みが魅惑的な存在感を漂わせる。会場はお互いの表現が呼応するかのように、調和し一つの空間を作り出していた。この経験から二人がそれぞれ今後どのように展開していくかが楽しみである。

藤本英明&桃原寿賀子 絵画展

現状探るきっかけに

「報道カメラマン 大城弘明・山城博明 写真展二人が撮らえた沖縄・終わらない戦後」

(沖縄県立博物館・美術館 3/28~4/19)

人の報道カメラマンが戦後からごく最近まで撮影した写真を美術館で展示するということは、非常に重要な意味を持っている。本来、報道写真は芸術作品としては捉えられないだろう。しかし美術館でこの展示会が開催されたことで、芸術と社会との関係性を深く考えさせられた。ここでの作品は、この地で起きたさまざまな事件、現状が客観的な視点で映し出された、まさにこの地の記録である。これらのことわれわれの生活に直接的に影響を及ぼし、現社会がどのような思考性を持っているのかを考え、沖縄の文化、歴史、アイデンティティといったものをあらためて探るきっかけとなる。これを踏まえ、それをどのように表現として昇華していくかという沖縄美術の一つの大きなテーマを考えさせられた展示会であった。

沖縄・終わらない戦後 展

自他の関係ひもとく

津波博美 solo exhibition twelve12

(沖縄市 sksk 4/3〜5)

県出身でロンドン在住のアーティスト津波博美は、インスタレーションという表現形式を通して、自身と他との関係性を自らひもといていく。他人の家(プライベート空間)に入り込み、部屋の一部を変化させ、変化前後の写真から合成し作品化する等、自と他とが関わることで互いの思考が変化し、新たな発想や行動を生む。つまり、作品を通して出会い、行動する事でお互いの未来が変わっていくのである。

津波博美 作品

個の集合が文化を産み社会を形成するのならば、個と個のつながりが社会の意識を変えていく事は明白である。アーティストは、社会に対し行動しつながりを投げかけていく存在と言えるだろう。