2015.12.9
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琉球新報 美術月評 2015年11月
やっと気温が下がり、過ごしやすい季節になってきた沖縄だが、芸術の世界では熱い表現の渦は収まりそうにない。今回もさまざまな作品と発見に出会うことができた。 |
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視覚の奥に潜む刺激
沖縄・台湾現代美術展
新・黒潮チャンプルー 沖縄・台湾現代美術展(11/7〜29、キャンプタルガニーアーティスティックファーム)では、沖縄から平良亜弥・児玉美咲・小橋川啓・宮城オサムの4名、台湾から陳奕彰・黄建樺・夏愛華・邱 國峻の4名のアーティストが出品し、芸術交流を深める展示会であった。 その中で小橋川の作品はポロロンスキーの回転教具という知的障害のある子どもなどに使われる身体的行為と視覚情報をつなげるものとして考案された教材で、いわゆる美術作品とは異なる。
作家は、自らの身体的行為により視覚化していくが、観覧者が得られるのは出来上がった視覚情報のみである。だが見る側は単に視覚情報だけでなく、その奥に潜んでいる何かを探ろうとしなければ本当の姿を知る事が出来ないのではないだろうか?鑑賞するという行為、作品を「視る」という行為について深く考えさせられた作品であった。
美術作品は、視覚情報だけでなくあらゆる方向から見る側をゆさぶり、刺激を与えうる存在なのである。
大学が持つ役割実感
京都と沖縄連携出開帳
京都と首里:二つの王都―大学は宝箱!京都・大学ミュージアム連携出開帳 in 沖縄―(10/23〜11/23県立芸術大学附属図書・芸術資料館)は、県立芸術大学と「京都・大学ミュージアム連携」との共同主催により開催された。県立芸大が所蔵している工芸作品や鎌倉芳太郎の貴重な資料などと、京都の各大学が所蔵している多彩な作品群を比較鑑賞出来る素晴らしい展示会であった。特に、京都の大学が所蔵している琉球王朝時代の作品や資料等が見られたのは貴重な経験である。 1932年に行われた沖縄調査研究によって、戦争により失われた沖縄の石碑の貴重な拓本や工芸作品が残され保管されていることなどから、学術研究の場である大学が美術館や博物館と同じように、その地、その社会にとって非常に重要な機関であることを実感させられた。大学と社会を繋げるこのような企画展が今後も開催されるよう期待したい。
「紅型」の圧倒的色彩
宜保聡
宜保聡 紅型展(11/17〜29、青砂工芸館) 若手紅型作家の宜保聡による今回の展示会は、「古典柄」にテーマを絞ったものである。
「古典柄 山頭桜波模様」帯は、朱の強烈な色が圧倒的な存在感で眼に飛び込んでくる。顔料で染められる「紅型」は、まるで絵画作品のような重厚な存在感を持つ。また非常に斬新に見える柄はすべて「古典柄」であることにも驚かされる。先人の、美しく斬新な柄。発想力とデザイン力、そして高度な技術力を、模倣し制作する事であらためて気づかされたと作者は語る。沖縄独自の「紅型」を、後世に継承し伝えていく意気込みを強く感じさせられた。
祖母の教え点描表現
大城清太
大城清太 天描画展IN首里観音堂(11.14〜23、首里観音堂・釈迦堂ホール)
画業10年を迎えた大城の個展は首里観音堂という寺院で行われ、堂内には新作10点と二双の屏風絵も展示された。作品は大城の祖母から聞いた人の生き方、心の持ち様、社会に対しての考え方や教えを元に、ごく細密の点描で描画表現されている。その中で、今の力を出し切って観音像を描いたという『龍頭真如』は、出来上がってみると観音にはまだ達していない修行の身のように感じるという。描かれた観音と龍の目は閉じたままだ。それは、作者自身の中を問い、見つめ直しているという意味を持つ。画家としていまだ達していない今の自分自身と照らし合わせたこの作品の、本当の完成を今後見れる事を期待したい。
若い世代に広めたい
県芸術文化祭
第44回沖縄県芸術文化祭(11/7〜15、県立博物館・美術館) 「県展」として親しまれているこの文化祭は、県民から応募された作品の中から入賞作品を展示する公募展であるが、高校生など若い世代には、ほとんど知られていないのが現状だ。そのため、若い世代に足を運んでもらうようさまざまなワークショップなどを開催している。
今回、筆者もデッサン講座を担当させてもらった。今後も若い世代に知ってもらえるよう協力していきたい。県知事賞を受賞した山城道の「ミークラガン=目眩」は、暗闇の中に卵黄のような物体が浮いているように見える。その不気味な存在が、作者の抱く不安や恐怖心をひしひしと感じさせられる迫力のある作品であった