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2017.2.8
琉球新報 展評

あふれる生命への尊厳

喜屋武千恵展〜やわらかな水、つよき土〜

(CAMP TALGANIE -artistic farm-キャンプタルガニー )
2017年2月4,5,11,12,18,19,25,26 3月4,5
※am10:00〜夕暮れ(17時ごろ)まで。

趣のある古民家に足を踏みいれるとすぐ、作品「Life between life No.3」が目に入る。玄関を上がってすぐの部屋からは作品「白澤(ハクタク)」がにらみを利かせてこちらをうかがっているようだ。太陽の光が優しく差し込む和室の床の間には、軸装作品「古代中国画模写」。細い廊下を進むとさまざまな小作品が出迎えてくれる。廊下の突き当たりは真っ赤な壁。壁伝いの作品群に導かれるように大展示室に吸い込まれていく。そこでは巨大な作品たちが迎えてくれた。彼女がここの空間を、産道や子宮のようだといっていた意味がわかったような気がする。  喜屋武千恵は1989年、沖縄県立芸術大学絵画専攻日本画コースに入学。それ以来岩絵の具等を用いて絵を描き続けている。学生時代は、技術は未熟だったが、とにかくパワフルでがむしゃらに描いてきた。沖縄芸大卒業制作作品は買上げとなり、94年、川端龍子大賞展にて優秀賞を受賞した。沖展では奨励賞を受賞した。大学院修了後は、個展やグループ展に出品、また県立芸大などで非常勤講師を勤めながら地道に活動を続けてきた。
 この展示会では、大学院修了制作作品「胸中の華」(94年)を見る事が出来る。20数年ぶりにその作品をあらためて見ると、その圧倒するエネルギーに驚かされた。
 しかし彼女は、それぞれその時にしか描けない作品があり、今40代の自分には、あの時のようには描けない。でも今だからこそ描けるものがある、という。
 そういわれれば、近年作の「母の詩」や最新作「祈りの地」は、「胸中の華」と比べると厚みのあるマチエールはさほど見当たらない。しかし画面から受ける印象は、静かではあるが膨大な熱量を感じるのである。
 もちろん技術に格段の差があるのは確かであるが、それ以上に力任せではなく別次元の表現に変化し、表現への欲求が増大しているのである。
 何が彼女をそうさせたのだろう。
 学生時代、彼女は孤独に画面に立ち向かっていた。卒業後社会に出てしばらくすると、独りではなくなった。孤独な創作活動ともう一つ、結婚生活が始まった。そして子どもが生まれ、仕事、家事、育児をしながらの創作活動が始まった。彼女は子育ても仕事も創作も全て一つのことだという。それは「生きる」「生を全うする」ということなのだろう。一人の女性から、妻になり、母となったからこそ、生命に対しての尊厳をより強く感じたのだろう。だから以前より増して創作の欲求が強くなっているのである。
 天然顔料にこだわるのは、自身が生きているこの地とつながるからだ。生命を育むこの地で起こった悲しい出来事を深くかみしめ、祈るように描く彼女の創作テーマが、キャンプタルガニーという場と響き合うことに大きな意味を持つ。その一貫したテーマをここで一望することで、なお強く生への歓喜があふれ出ているのである。

黄金 忠博


喜屋武千恵展 展示風景