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2017.5.10 
琉球新報 美術月評 2017年4月  黄金忠博

作り手との距離近く

大宜味村工芸展「いぎみてぃぐま」

(4/7〜9 大宜味村喜如嘉 農村環境改善センター) 

大宜味村在住の工芸作家、工房による工芸市「いぎみてぃぐま」は、今回で14回を迎える。ほのぼのとした雰囲気の中で、様々な工芸作品に触れる事ができた。県外から移住してきた作家も多く、この場での生活の中から生まれる作品に、人間性と風土の関係性を強く感じる。ものを作る行為が、生活の一部となっているのだ。だから作り手とそれを使う側との距離が近く、アート&クラフトのあるべき姿を感じさせられた有意義な時間であった。また他ジャンルの作家が集まり、1つのブランドとして発信していく活動も始まり、今後の展開が楽しみである。

展示風景大宜味村工芸展「いぎみてぃぐま」よりTICOLLAB

卓越技術で物体変換

切り絵アート展 

(3/11~4/16浦添市美術館)

日本人独特の手先の器用さと気質が、切り絵の表現方法をここまで展開させてきたのであろう。切り絵は、平面絵画とは違い紙の厚みがあるため、現象ではなく実在的な感覚が生まれることが魅力であろう。紙に描かれる線は、あくまで現象的、平面であるが、切り絵はその線が物体として存在する。
 蒼山日菜による「Voltaore(ヴォルテール)」は、線で描かれる文字を切り抜き、別紙の上に浮き立つように配置されている。これを見ると、文字という意味を持ったものが、意味を持たない美しい装飾的な物体に変換されている。卓越した技術によって形にされた文字や対象物に不思議な感覚を覚えるのも、これが原因ではないだろうか?つまり切り絵は三次元の絵画といえるだろう。沖縄県立芸大出身のデザイナー、古堅ちひろのペーパージュエリーも特別展示として紹介されていた。


−息を呑む繊細美−切り絵アート展より古堅ちひろの作品

沖縄人の感覚表面化

「安次富長昭展」光・風・土への憧憬

(4/25~10/15 沖縄県立博物館・美術館)

 安次富長昭は、にしむいの画家、安谷屋正義に師事し、絵画に留まらず琉球切手デザイン、海洋博記念コイン、大学校章、ホールの緞帳デザイン画、本の装丁などデザイナーとしても社会へ幅広く貢献し、今日まで沖縄美術を牽引してきた。第一回沖展賞受賞作の具象画から徐々に抽象画へ展開していき、苦悩しながらも個性が形となっていく様から安次富造形の本質を見だせる。  それは、安次富の日本人として、沖縄人としての資質、精神性と歴史、風土の持つエネルギーを非常にシンプルな形と、鮮やかな色彩によって簡潔に表面化したことであろう。初期に見られるマチエールによる質感は、徐々に姿を消していき、アクリル絵の具による平面的な色面構成から、沖縄の強烈な光とその中で育まれてきた沖縄人の独特な色彩感覚を浮き彫りにしている。
 60年代のアメリカ美術のハード・エッジ、カラーフィールド・ペインティングを連想させるが、硬質ではなく柔らかさを感じるのは、沖縄人気質によるものであろう。沖縄の歴史と風土の中で育まれた安次富の感性が、独特の絵画造形を生んだのだろう。


安次富長昭展より

現れる非日常の風景

写真家が見つめた沖縄

(4/25~5/21沖縄県立博物館・美術館)

「被写体としての沖縄」をそれぞれの写真家たちの視点、想いでシャッターを切る事により、その中に映り込む何かが非日常風景として現れる。この展示会をディレクションした石川竜一の視点が大きく反映されているといえる。それは記録という視点、自己表現という視点、ジャーナリズム的視点などといったあらゆる写真表現の可能性を探るという指向性だが、「被写体としての沖縄」が、ぼやけた印象をもった。  特に県民ギャラリーの若手写真家の展示は、自己表現の場という指向性が強いように感じる。コレクションギャラリーと県民ギャラリーとに分かれての展示だったため、それぞれの関連性が希薄に感じられるのも原因かと思う。
 同時開催されたシンポジュウムは、写真表現の重要性を確認した上で、それをどう保存し管理していくかといった問題が議論された。これらは美術館はもとより、図書館や沖縄芸大など公的機関での管理が必要で、さらに写真史研究は早急に進めて行かなければならないという意見が出たが、これは写真だけに限らず、沖縄美術、芸術全般にいえることだろう。表現活動に対しての価値付けと、教育も含めた普及活動がますます必要であることを痛感した。


「写真家が見つめた沖縄」よりタイラジュン、松本太郎の作品

創作への欲求あふれ

仲宗根牧子 絵画・デッサン展 水の記憶

(4/25〜5/9沖縄市知花 ギャラリーあかぎの杜)

2006年から2017年までに製作した作品からセレクションした展示会。絵画を中心とした作品は、人物、風景などあらゆる対象物が描かれ、音楽をテーマにした作品もあり、幅広い表現には、固まったコンセプトはないという。大きなテーマとしてタイトルにもある「水の記憶」といえるだろうが、自然、場の力からインスピレーションを得る彼女の制作スタイルにとって、創作の源でもある。作者は、作品を見ることで自らの記憶の旅に出て楽しんでほしいというが、それ自体作家本人の創作する意思そのままであろう。創作に対しての欲求が溢れ出てくるようなエネルギーを感じた。今後の展開が非常に楽しみである。

仲宗根牧子 絵画・デッサン展