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2018.7.27
沖縄タイムス 2018年7月27日 展評  黄金忠博

制作姿勢 生徒に刺激

美術の先生がつくった作品展

(7/24~7/29 沖縄県立美術館・博物館 県民ギャラリー)

 小学校では「図画工作」といった授業が、中学校に入ると「美術」という教科になる。そしてそこで「美術の先生」に出会うことになる。多くの人にとって、人生の中で最初に出会うアーティストが「美術の先生」と言えるだろう。そのことがわかる展示会がこの「美術の先生がつくった作品展」だ。  この展覧会は今回で6回目を迎える。回を重ねるにつれて出品者が増え、今回は44人が出品している。「学校」をテーマにしたこの展示会を初回から見ているが、年々クオリティーが高くなっている。表現形態は千差万別で、絵画、版画、彫刻、立体造形、写真、染織、陶芸、インスタレーション等、多彩な表現が堪能できる。
 中学以上の美術の先生は、大学で美術の専門教育を受け、教員免許を取得している。元々はアーティストを目指し、自身の作品制作を行っていた。教員になると仕事の多忙さから作品制作から離れがちになり、発表する機会から遠のいていく。このようなことから、いま一度アーティストとしての創作意欲を再燃させ、それを生徒・学生たちに還元させたい、また美術界を活性化させたいという思いがこの展示会の開催意図であろう。だからこの展示会ではアーティストとしての一面を見ることができるのだ。
 テーマである「学校」は美術の先生にとって職場であり、日常であり、モチーフでもある。出品者の年齢層は広く、ベテラン勢の作品が見られるのはしいことだ。中でも、伊元隆一の「君たちはどう生きるか」は絡み合う針金、見えそうで見えないビジョン、生まれては消えていくイメージなどが目の前に立ちはだかる。現実の世界は簡単に理解できるものではない。だからこそしっかりと見つめ、自身でこれをじっくりと読み解くことの重要性を教えているかのようだ。絵の具の重なりから見え隠れする画面から目が離せない。
 仲里安広の「失われた戦前の女学校」は鏡で作られた物体が空間と鑑賞者を取り込み、一体化させるモニュメンタル(記念碑的)な作品。平敷傑の「ヒージャー」は等身大の鉄の彫刻作品で、力量の高さを感じさせられる。
 上原秀樹「『milestone 2018』~遠い先へ 祈り続けることⅢ~
は繊細な造形が連なることで、その精神の永遠性を感じさせる。嘉数武弘の「No.4」は金箔が貼られた無数の四角が壁面を覆うミニマルな作品で、強烈な視覚効果を生んでいる。
 その他多彩な作品を見ることができるが、やはり一番見てもらいたいのは生徒、学生だ。普段学校で教えている先生としての姿が、この場ではアーティストになるのだ。作品を生み出すアーティストとしての背中を見せ、生徒たちを刺激する。作品制作も、美術教育の一環になるだろう。生徒、学生だけでなく保護者など多くの方々に見ていただきたい展示会である。
 今回は、シンポジウムを開催し筆者も登壇する。戦後沖縄美術の変遷と現在のアートシーンの状況、そして美術教育について改めて考える機会となるだろう。
(那覇造形美術学院学院長)
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 同展は県立博物館・美術館県民ギャラリーで29日まで。


伊元隆一「君たちはどう生きるか」