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HOME > 美術評論 > 2018 > 沖縄タイムス2018年7月佐喜眞美術館展評

2018.7.25
沖縄タイムス 展評 2018年7月25日 喜屋武千恵 

生きる喜び 共鳴する空間

丸木位里・丸木俊・丸木スマ・大道あや展

(~7/30 佐喜眞美術館)

 あなたは絵を見て、アートに触れて「心が揺さぶられる」という経験をしたことがあるだろうか?  アート鑑賞ナビゲーターとしてアートのしみを広げる活動に尽力している藤田令伊氏は、自身が執筆した「すごい美術館」(ベストセラーズ)の中で、宜野湾市にある佐喜眞美術館を、「心が揺さぶられる」美術館として紹介している。そこには、「原爆の図」を描いたことで知られる丸木位里・俊夫妻による「沖縄戦の図」が常設展示されている。
 現在、佐喜眞美術館において「丸木位里・丸木俊・丸木スマ・大道あや展」が開催されている。
 広島出身で日本画家の丸木位里、北海道出身で洋画家の丸木俊、丸木スマは位里の母親、夫妻の薦めで歳を過ぎて筆を執り、自然賛歌れる作品を描いた。大道あやは位里の妹で、独創的な日本画の世界を創り出し、絵本「こえどまつり」(福音館書店)で世界絵本原画展・優良賞を受賞している。強い絆で結ばれた丸木家の人々の、各人各様の魅力的な作品で構成されている。それらが共鳴しあい、生きる喜びが空間を満たしている。
 丸木スマの色彩豊かな作品は、世紀の巨匠アンリ・マティスをさせる。それは目に見える色彩だけでなく、目には見えないが感じる色彩を画面に配色し、色彩同士が響き合う画面を構成している。そのことをマティスは理論的に、スマは直感的に行っていた。そのことをスマは「色が張り合う」と表現している。作品「小鳥たち」は、背景の黄色と青が鳥の黄色と青と響き合い、全体を構成している。画面中央下に配色されている朱色が、画面を引き締めている。私たちは、スマの目を通して、見えていなかった世界の美しさを発見することができる。
 スマは、貧しい暮らしのなか子供たちを育てるため必死に働き、被爆者として広島を生き抜いてきた。そんな人生の辛苦を乗り越えた人だからこその、底抜けの強さ、明るさが絵画に現れている。なんの気負いもなく自由で気持ちがいい。生きる喜びが画面から溢れだし、私の心を揺さぶる。スマの作品には不思議な力がある。
 また、スマの作品には、日本画の画材、つまり古くからアジアや日本において使用されてきた天然鉱物や土・墨・藍などの天然染料・などの、風土に根差した自然素材が多く用いられている。それが、美しく柔らかな色彩、素朴な力強さといった魅力にがっているのかもしれない。
 丸木位里の風景を題材にした雄大な水墨画もこの機会に見てほしい。墨のたらしこみと勢いのある墨線が印象的な作品「残波岬」からは、「墨に五彩有り
と言われるように、な色彩が感じられる。
 今回の企画展は、「沖縄戦の図」と対極の世界とも言えるだろう。
 生と死、創造と破壊、光と影、歓喜と絶望…。
 そのコントラストの強さが、よりいっそう、見るものの心を強く揺さぶるのだ。
(画家)
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 「丸木位里・丸木俊・丸木スマ・大道あや展」は佐喜眞美術館で日まで(火曜休館)。問い合わせは同館、電話098(893)5737。


丸木スマ「小鳥たち」