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2018.2.7
琉球新報 美術月評 2018年1月  黄金忠博

自由な表現形式特徴

第14回創元会沖縄支部展

(1/16~21 県立美術館県民ギャラリー)

長い歴史を持つ創元会だが、沖縄支部としての展示会は14回を迎えた。具象、抽象を問わず、自由なスタイルの作品が多く見受けられた。初代支部長の故久場トヨの作品3点も出品しており、静かながら見守るように会場に熱気を与えていた。また一般参加者も交えて創元会理事、役員による研究会を行い、表現指導も行なっていた。今後も自由な表現の場と、県外交流の機会として続けていってほしい。

創元会展示風景

目を引く巧みな構成

那覇市収蔵品展

( 1/23~28  那覇市民ギャラリー)

故久場とよの作品をここでも見ることができた。これは文化芸術ふれあい事業の一環で行われた県内女性作家作品展である。久場の他に、𤘩宮城セツ、大見謝文、山元文子、照屋万理、中島イソ子、西村立子の作品が一堂に並び、沖縄女性美術家の現在までの流れを見ることができた。久場の作品は背景と人物とで全体を巧みに構成しており、静かな動きのある画面空間が目を引いた。

久場とよ 翡翠色のドレス 1995年

豊かな色彩と力強さ

大平特別支援学校美術展てぃーだのひかり

(1/20~28 浦添市美術館)

会場に入るやいなや、小学1年から高校3年までの児童生徒作品300点あまりの作品が会場を埋め尽くす。鮮やかな色彩にあふれ、その力強さに圧倒された。そしてどの作品も生き生きと輝いている。美術表現の根源を見ているようで、こちらまでワクワクしてくる。 さまざまな技法で作られた作品群とその数、展示方法などを見て、指導教員の指導力の高さを感じた。表現技法の豊富な知識と児童生徒それぞれの個性を見極め一人一人に的確な指導がなされ、児童生徒の個性が十分に発揮された作品群となっている。美術教育の良き在り方が示された展示会であった。

てぃーだのひかり展示風景

やんばるアートフェステバル

(17年12/9~18年1/21旧塩屋小学校)

 沖縄本島北部地域を舞台とした美術展で、旧塩屋小学校をメーン会場として 、海洋博公園、名護市民会館前など複数の会場で展開された。メーン会場となった旧塩屋小学校は、まるで海に浮かぶ船のような場で、眼下には海、背景には森林が広がる。まさに自然の美の中にあるこの場所で現代美術はどう機能するのかと思いながら会場に入った。展示会場に変えられた小学校の教室内をさまざまな作品群で埋め尽くされている。そのうちに現代美術の機能への不安は消えつつあった。ジャーナリスティックに訴えてくる作品もあれば、視覚的に楽しめる作品もあり、バラエティーに富んで見る者を飽きさせない。中でも高木正勝の映像作品「Ymene:1.idu mi」は、見たことのあるようでないようで、曖昧な、しかし実感がある映像表現でその独創的な世界に引き込まれた。このようなアートフェスティバルは一過性のものではなく、その地域に根付いて一緒に発展していくような存在にしてほしい。

高木正勝「Ymene:1.idu mi」より

沖縄芸術の変遷刻む

彷徨の海・邂逅の海

(17年11/1~18年2/4 県立美術館)

県立美術館開館10周年の記念展であり、「交流」をテーマとして歴史的観点でみた沖縄と台湾の美術動向を紹介する「彷徨の海」と、現代の表現の多様性を中心に据えた「邂逅の海」という2つの形で行われた。戦前から戦後という時間軸の中、台湾、日本との交流の中で沖縄芸術の変遷が見ることができたのは貴重な経験であった。そして「邂逅の海」ではそんな歴史を土台に沖縄の現代美術には何が起こっているのか、どこに向かっているのかといった今現在の沖縄美術の姿が見えてくる。中でもlas barcasの言葉や映像、写真、批評をも含んだジャンルを超えた活動はユニークである。また嘉手苅志朗、石田尚志、照屋勇賢、松本力、ジュン・グェン=ハツシバ、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)などによる映像作品が多く見られたのも、表現の多様化となる現代だからこそといえる。県立美術館・博物館が出来たことにより過去から現代までの芸術表現を体系付けて見ることが出来るようになったことは、県民にとって大きな財産になる。今後も芸術運動発信の拠点として、さらなる活動に期待したい。

邂逅の海からlas barcasブース

伝統技術と革新融合

柳悦州退官記念展

(1/12~21 県立芸大芸術資料館)

1986年に沖縄県立芸術大学美術工芸学部に赴任し従事された氏の退官記念展は、織物作家としての一面と鎌倉芳太郎資料研究、ラオスなど国外の織物などの研究者としての一面とが同時に見ることのできる良質な展示会であった。経ずらしによる着物、タペストリー、帯地、着尺等30点あまりの作品は、暗く深い色味が多い。沖縄の暗い色には広がりと深みがあり、それは沖縄の環境が生み出すもので、そこが特徴でもあるという。また工芸デザインについて伝統的な技術を踏まえ高めながらも、型を突き破り革新的に進めていかねばならないという柳氏の言葉に、沖縄工芸への愛情と未来が感じられた。

柳悦州 再生ⅴ 2007年