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2020.1.19
琉球新報 美術月評 2019年8月  黄金忠博

おもちゃ遊びの感覚

「P-2山内もりあき(陶芸家)個展 」

(8/9~12 旧 若松薬品(那覇市壺屋))

 ロンドン在住の陶芸家による沖縄では3年ぶり2回目の個展。沖縄の伝統工芸の陶芸作品とは一線を画する展示会であった。和菓子や積木などのおもちゃから発想した作品は、手で触れて、その重さを感じ、擦り合わせて音を奏でてみたり、立てたり、寝かせたりすることで空間の変化を感じたり、想像して楽しむなど、子どもの頃おもちゃで遊んだときの感覚を呼び起こさせる。セメントの土台に、鉄芯のようなものが飛び出ている作品の鉄芯部分は陶器で作られている。これは沖縄建築の特徴であるコンクリートブロックをイメージしたもので、作者の原風景に由来する。子どもの頃に過ごした記憶の中の沖縄を見事に表現している。作者は自身のアイデンテティの欠如が伝統工芸の様式などに囚われず、自由な発想で作品を生み出す要因だという。作者にとって陶芸は、自己のイメージを具現化する最適な手段なのである。

山内もりあき(陶芸家)個展作品

作者の個性を明確化

「JAGDA沖縄グラフィックデザイン展
「たのしいデザイン2019」 」

(8/6~12 県立美術館・博物館 県民ギャラリー)

 JAGDA沖縄から12名のデザイナーが出品した本展は「たのしいデザイン」というテーマとは別に、「元」というテーマを設けた。このテーマの捉え方は各々により異なり、逆に各デザイナーの個性を明確にさせた。花木豪は テーマを「始まり」と捉え、石器時代の石器をモチーフにデザインした。人類最初のデザインは「石器」と説き、これは当時の生活に必要なことから生まれてきたものであろう。そして生活様式が変化するにつれ、一つの石器からさまざまなバリエーションが生まれ、どんどん変化し広がっていく。花木の作品はそれにリンクして、一つのモチーフから様々にバリエーション豊かに変化していくのである。ウチマヤスヒコは自身のルーツに求め、「家紋」からデザインを制作。「家紋」は漢字を元に数百年前にデザインされたものと考えると、デザインは生活と密着した身近にある表現だということに気づかされる。デザインは生活の中から生まれ、育まれ、その生活を豊かにしてくれるものなのである。

花木豪作品

新たな絵画空間暗示

「平良優季展 「overlap」」

(8/10~18 ギャラリーアトス(那覇市金城))

 沖縄芸大博士課程を修了し博士号を取得した平良優季の初個展は、日本古来伝わる岩絵具、研究テーマである寒冷紗による表現といった、一貫した制作姿勢を強く感じた。F100号の大作「沁みる呼吸」は、平面絵画として完成度が高い。若干、線描表現に硬さと弱さを感じるが、極彩色で彩る画面中央の植物と左下に描かれる暗色の人物像との対比により、緊張感ある画面を生み出している。今回この展示空間を意識したことにより、今までにない新たな表現方法に挑戦している。絵画パネルを格子状に壁面に設置することで、展示空間を作品の中に取り込む方法は、今後も研究していく余地はあるが、新たな絵画空間への展開を暗示させている。今後大いに期待したい。

平良優季「沁みる呼吸」

鑑賞教育実践の場に

「美術の先生が作った作品展 vol.7共振 」

(8/14(火)~18(日) 県立美術館県民ギャラリー、スタジオ他)

 タイトル通り、美術の先生が出品する展示会で、今年で7回目を迎えた。6回目までは「学校」をテーマとしていたが、今回はそのテーマを無くし出品者の作家性を重視したものとなった。出品者48人によるさまざまな表現作品を、十二分に堪能出来るものであった。この展示会の役割の一つに、作家意識を目覚めさせる場ということがある。芸術家を志す者の美術に携わる職業として美術教師があるが、実際には激務により創作活動を続けるには難しく、滞っている人も少なくない。しかし、この展示会に参加することが創作のキッカケとなり、創作意欲を再燃させているのである。もう一つの役割として鑑賞教育の実践である。鑑賞教育は知識や情報だけでなく、芸術作品の現物に見て触れることで自らの感性と思考力を磨くことができる。この展示会の動員数は、5日間で3400名を超えたという。中学生、高校生など教え子の動員が出来るのも先生展ならではのこと。このことから、この展示会は鑑賞教育の一端を担っており、将来的に美術館に足を運び芸術を楽しむという県民の豊かな文化的習慣を育むことにつながっていると言える。今後この展示会がどのように展開していくのか、また沖縄美術の一つの動きとして見届けていきたい。

美術の先生が作った作品展 vol.7共振 展示風景

作品制作の方法指南

「「やりたいことはないけど やることはたくさんある」展 ~仲本賢・小高政彦 作品展・2019夏~」

(8/15(木)~19(月)県立芸大芸術資料館第1展示室)

 県立芸大デザイン専攻の教授陣による、作品制作の方法をユーモアたっぷりに指南する展示会である。写真表現による作品には、それぞれ1点ずつ標語のような言葉が掲げられている。それは制作時の具体的な手の動かし方、考え方を提案したもので、ものづくりとは意外にもこのような簡単な事柄から始まるものと痛感した。「目的がないまま出発し、どこに行くのかわからない状態で歩き続けること自体が浪漫であり醍醐味」という作者の言葉は、作品作りを志す者へのエールに聞こえるのである。

「やりたいことはないけど やることはたくさんある」展 ~仲本賢・小高政彦 作品展・2019夏~ 展示風景