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2020.1.16
琉球新報 美術月評 2019年4月  黄金忠博

普及教育の役割強化

「第71回沖展 」

(3/23(土)~4/7(日) ANA ARENA浦添)

今年で71回を迎えた県内最大の公募展である「沖展」は、絵画、彫刻など全12分野の作品全845点が展示された。作品展示だけでなく、陶芸や書、デザインによる「体験ワークショップ」、来場者の投票により決定する「みんなの1点賞」などといった催事を通して芸術普及活動、美術教育の場としての役割を強めている事は喜ばしい。絵画の奨励賞には仁添まりなの日本画作品、浦添市長賞には城間文雄の鉛筆画が受賞するなど、表現の幅が広がった。彫刻の展示スペースは手狭に感じ、落ち着いて作品を見ることが難しかった。工芸織物では、昨年末に急逝したルバース・ミヤヒラ 吟子の首里花織訪問着「紫陽花」が平良敏子の作品と並べて展示されていたのが印象的であった。

ルバース・ミヤヒラ 吟子 首里花織訪問着「紫陽花」

写実表現に絵の本質

「驚異の写実 ― ホキ美術館名品展 」

(4/6(土) ~ 5/20(月) 県立博物館・美術館)

絵画表現の根源的問題であるリアリティ表現の探求は、平面である絵画の中に奥行きのある三次元世界をどうすれば表現出来るかという問題から、ルネサンス期に透視図法が開発され以後絵画は様々な表現様式を産み現在まで発展してきた。近代「写真」の登場により、 対象物を正確に描き出すといった役割は薄れ、絵画表現は別な道を探さざるを得なくなったが、この展示会 は、「写実」表現によって描かれた作品群の展示会である。野田弘志の等身大の少女を描いた「崇高なるもの」は、真っ直ぐ立っているが右肩がわずかに落ち、眉間にしわを寄せた険しい顔の表情が印象的である。ほんの僅かな形態のずれや顔の表情から、モデルの不安定な精神状態を表現している。原 雅幸の「モンテブルチアーノ」という風景画は、一見写真のように見えるが、雲の切れ間から差し込む光が大地の一部を照らす数秒の間を捉えている。写真なら 時間の経過によりブレが生じるはずである。しかしこれはその僅かな時間の経過を克明に描写しているのである。つまり写真ではこのような風景は写すことができない。人間の眼で観ているからこそ、絵画であるからこそ、それを表現出来るのである。「写実表現」は単に見えたままを写し取っているわけではなく、作家の眼を通した「現実(リアリティ)」と「感覚」を画面に再構築しているのである。それは絵画表現の本質と言えるだろう。

ホキ美術館名品展展示風景

伝統工芸の行先示す

「田里博 個展「MY FAVORITE THINGS 2015-2019」

(4/26(金)~5/6(月)那覇市立壺屋焼物博物館)

沖縄芸大教授時代の5年間で制作された作品群で構成されたこの展示会は、7年ぶりの個展であるが遺作展となってしまった。抱瓶や焼締め壺などのような伝統的焼物と、幾何学的な形態の花器や壺のような仕事の方向性は、一見すると相反するようにみえる。だが伝統的焼物の写しからその技術を学び、そこから本質を抽出し、新たな形態として生み出していく田里の創作姿勢から、陶芸における伝統と革新の関係性が見えてくるようであった。今後の伝統工芸の1つの行先を示す説得力ある形態であるといえよう。探求が志半ばで途絶えてしまったのは非常に残念でならない。故人の冥福を心から祈る。

田里博 多面壺

色彩豊かな絵本原画

「儀間比呂志 木版画展 」

(4/30(火)~5/6(月) ギャラリープルミエ(北谷))

儀間比呂志といえば「戦争」をテーマにした作品をイメージするが、今回は絵本の原画を中心に展示されており、会場全体が明るい色彩にあふれていた。併せて絶版になっている絵本も展示され、それを見ることが出来たのは非常に貴重な経験であった。木版画独特の力強いアウトラインをそのままに、裏から色彩を乗せる「裏彩色」の手法によって、ラインを損なわず描きあげる。色彩は手彩色なので、同じ版であっても色彩表現が11点違う。本のサイズによっては、構図を変えて制作するものもあるという。木版の力強さと彩色によるやわらかさのバランスが、心地よい画面を生んでいる。

儀間比呂志 木版画展展示風景

”定番”を多様に表現

「第2回ひと派展」

(4/30(火)~5/5(日) 県立美術館 県民ギャラリー)

「ひと派の会」とは、彫刻家の大川博之が講師を務める美術講座のメンバーを中心として、人物(ひと)をテーマとした作品を制作している作家が集まって結成され、今回で2回目の展示会だという。人物モデルは、美術を学ぶ方法の一つとして定番のモチーフである。人体という有機的な形態、プロポーションをとる客観的な見方、衣服や肌などの質感表現など様々なことが学べるが、そこから自らの表現テーマを探り出すことも出来る重要なモチーフでもある。そのような人物モデルを多種多様な方法で表現した作品が一堂に並ぶ。クロッキーや木炭デッサン、パステル等といった比較的小品が多いが、大作も見てみたい。今後の活動での展開が楽しみである。

ひと派展展示風景