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2016.5.4
琉球新報 美術月評 2016年4月  黄金忠博

新しい年度の始まった4月には、芸術の根源である人間と自然との関わり、その出発点といったことを感じ取れた展覧会を見ることが出来た。そしてそのエネルギーに潤され芸術の素晴らしさを改めて実感した月であった。

美しく映える「黒」

山城見信展

(3/3~5/9 佐喜眞美術館)

15年ぶりの個展はすべて新作で、作品群を見ると今年78歳とは思えないエネルギーである。勢いあるブラシストロークは抽象表現主義のスーラージュやポロックを思い起こさせる。

黒という色は闇や暗い過去を連想させるが、山城の黒からはそれを感じさせず、それ以上にその存在が美しく映える。それは暗い過去の事実を受け止めて、生きている「今」を表しているからではないだろうか?生への熱量が制作に還元され描かずにはいられない。みなぎる制作のエネルギーは、簡単に枠組みを超えどんどん増殖していき、見る者に圧倒的に迫ってくるのである。



山城見信展「No.2」.jpg「No.2」 」

生命と現実捉える

まぶいぐみ連続写真展

(4/9〜17 ギャラリー・ラファイエット)

伊波リンダと小橋川共男という世代の違う二人の写真家による、コントラストの強い展示会であったが、眼の前に現れた対象物に体が反応してシャッターを切るという観点は同じで、互いの作品を見ると、今の沖縄で起こっていることに目を向けていることに違いはない。写真は対象物がなければ自分だけでは成り立たない。だから写真には可能性と多様性を感じるという。伊波は、米軍基地内の風景を、小橋川は石川岳の自然にレンズを向ける。そこには生命と現実に向き合うという共通するものをみてとれる。どちらもジャーナリスティックな視点を超えた、写真家の想いが表出しているのである。

伊波リンダ&小橋川共男展示風景.jpg伊波リンダ・小橋川共男作品

モノの本質を映す

根間智子「Paradigm」展

(4/8〜17 小舟舎:那覇)

根間の写真はブレていて、それが何か、どこなのかなどと見る者が懸命に探ろうとする。しかし分かることは、何かが動いていて、ぼんやりと何かがあるという気配だけである。

本来世界は動きの中にある。人が何かを認識するには、連続した動きの中から探り出すことになるが、カメラは人の眼では捉えられない一瞬を捉えて動きを止める。はっきりと映し出されることによって人が認識するのと同時に、それを概念化する。概念とモノの本質とは違うものであるから、その本質は混沌とした曖昧な状態の中にあるといえる。つまり根間のブレだ写真には、モノの本質が映し出されているといえる。モノの捉え方を考えさせられた展示であった。



根間智子「Paradigm」.jpg根間智子「Paradigm」より

心に響く自然の色

志村ふくみ-母衣への回帰-

(4/12~5/29 沖縄県立博物館・美術館)

あらゆる草木から色を抽出して染める志村ふくみの作品群を見て、あらためて自然と生命の持つ美しさに気づかされる。人が自然の中にある色彩を抽出して形にする芸術活動は、人が自然を受け入れ、また自然が人を受け入れ、一体化する行為だという。作品が一同に並ぶ様を見ていると、まるで大自然の中にいるような感覚にとらわれ、色彩が心に深く響く。創作を通し、人間と自然との共生という根源的な価値観を思索し続ける志村の姿勢に、非常に高い精神性を感じる。

志村ふくみ作品.jpg志村ふくみ-母衣への回帰-より

豊かな感覚表出

日々のその呼吸へ 辻茉莉花 と 中村玉輝 の2人展

(4/16〜24 浜比嘉島)

改装が決まっている古民家に住み込みながら、その中から生み出される絵画と衣服を展示したこの展示会は、作家2人にとって次への展開のきっかけになったようだ。美術と生活が切り離されていない時代の、豊かな感覚と緩やかな時間の流れを感じさせる展示空間は、まるで洞窟の中にいるような印象をもった。中村の絵画は、土で板壁にプリミティブな絵画が直接描かれ暖かな印象をもつ。これに辻の破線の縫い糸が響きあう。絵画と衣服のコラボレーションは、この古民家の空間とそこでの生活があったからこそ生まれた。創作の原点を感じることができた良い展示会であった。今後の二人の活動を楽しみにしたい。

日々のその呼吸へ展示風景.jpg辻茉莉花 と 中村玉輝ふたり展展示風景

完成度高い作品

沖縄県立芸術大学大学院修工課程工芸専修進級展

(4/20~4/24沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリー1)

この展示会では染、織、陶芸の3専攻で学ぶ沖縄芸大大学院生の作品が展示されていた。さすがに学部生とは違い、鍛えられた技術によって制作された作品には高い完成度を感じ、見応えのある展示会であった。しかし伝統工芸の高い技法を習得する一方、新たな工芸の可能性を見出すまでにはまだ至っていないように思う。さらに一歩踏み出した、ある意味逸脱した作品が見てみたかった。

沖縄県立芸術大学大学院修工課程工芸専修進級展展示風景.jpg県立芸大大学院修工課程工芸専修進級展より

私事ではあるが先日県立美術館にて沖縄芸大同窓会主催の講演会に登壇させていただいた。今後も毎月1回社会で活躍する県芸大卒業生による講演会が行われるので、ぜひ足を運んでもらいたい。