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展示会

琉球新報 2013年1月美術月評             黄金忠博

新しい年の幕開けとなる1月、沖縄は日本で1番早く桜が咲き乱れる地域で知られている。天候も定まらない季節の変わり目であるこの時期は、一つの節目と新たな門出を迎える時期でもある。そんな中見てきた展示会を振り返ると、鍛錬から表現への昇華という構図が見えてきた。

若さと活気みなぎる 首里高染織そめおり展

 長い歴史を持つ首里高校染織デザイン科の卒業制作展「そめおり展」(1/29〜2/3那覇市民ギャラリー)は今年で53回目を迎えた。伝統的な技法を習得しつつも、高校生らしいアイデアのある作品が並んでいて、活気のみなぎる展示会であった。高校生という多感な時期に沖縄の伝統的染織技術を肌で感じ、身につける経験は、豊かな感性と創造性を養うだろう。この中から伝統工芸の担い手が次々と出てきてくれる事を期待したい。

(首里高校染織デザイン科の卒業制作展「そめおり展」)

鍛錬から表現へ昇華 県立芸大彫刻専攻

 彫刻専攻1,2,3年生展「冬篭り展」、院1・研究生展「CHOUKOKU LOVE MACHINE 2013」(1/26~1/30沖縄県立芸術大学附属図書芸術資料館)では、県立芸大彫刻専攻の学生による学習成果の発表会として、鍛錬から表現へ昇華していく過程が見られた。専門分野を学び始めた1年から3年までの作品は、技術習得のための習作であり、これからの展開を期待したい。それと比べやはり院生の作品は、表現としての高まりを感じる。その中で倉富泰子の木彫作品「星降る夜」は、気配を感じさせる存在感と詩的な感情をも表現された印象的な作品であった。

(倉富泰子「星降る夜」)

作家の意識 完成度に 陶四人展

『陶四人展』(1/25 〜 2/3日gallery shop kufuu)は、県立芸大陶芸専攻院、学部生の金城 彩子、金城 宙矛、中前 百合子、小浜 由子の4人によるグループ展。学生らしい斬新なアイデアも見受けられたが、それ以上に陶芸作家としての意識が強く感じられ、完成度の高い作品を多く見る事が出来た。金城彩子の作品には、古典的な技法をしっかりと学んだ、確かな技術力を感じる。 金城 宙矛のシンプルながら美しさのある粉引の作品、 釉薬の美しい色合いを持つ中前、アンバランスな形態の面白さと美しさが魅力的な小浜、それぞれ今後の活動が楽しみである。

(『陶四人展』から金城 彩子「木の実 水滴」 )

感覚呼び起こす物体 胡宮ゆきな

胡宮ゆきなー談談笑笑tantan-xiaoxiaoー (1/18〜1/27画廊沖縄)
繭の様な、生き物の様な一見温かそうで柔らかそうな質、形態の作品は、すべて冷たく硬い陶磁器である。そのオブジェを後ろの方から見ていくと、アウトラインには顔を想像させる形を見つけることができたが、回り込んでみると顔は無く、穴があいている。その穴から数本の人間の足が飛び出している。その生き物が、人間を食べているのか?それともその生き物から足が生えてきているのか?これらの作品には様々な想像を膨らますきっかけが施されている。
個人の中にある感覚を呼び起こさせる、または揺れ動く経験をもたらせる物体。日常生活の中にそういった視点を持ち込もうとする作者の策略に、見る側はまんまとはまり、心地よさと気持ち悪さという感情を抱きつつ、揺れながらその空間に酔いしれるのである。

(胡宮ゆきなー談談笑笑tantan-xiaoxiaoーより)

差異に本質見いだす 宮城オサム

宮城オサム〜TRANSPOSITION〜(1/26〜3/3 COTONOHA ART SPACE+CAFE)
記憶の中にある自身の体験を再度具現化しようとした時、そのヴィジョンはあやふやな状態であったり、すり替えられている事を知る。しかし記憶の中には確かな感覚として存在する。画表面にその状態を描き出す事により、事実とは異なる事を実感し、その差異をどのように捉えていくか、そしてその差異の中に本質を見いだしていくという姿勢には共感する所が多い。「A&W Girl」や「A&W Bear」など、TVCMや広告などの記憶の中に埋め込まれた視覚情報を、引き出していくうちにその情報がいかに曖昧な物かがあらわになる。つまり実感とは情報を自己の中で再構築して出来上がったもので、この展示会はそれを再確認させられるものであった。

(宮城オサム 「A&W Girl」)

真摯な態度 美を抽出 西村立子

「西村立子・島袋常秀・吉田匡廣 退任記念展」(1/9~1/17沖縄県立芸術大学附属図書芸術資料館)は、同大で教鞭を取られた3人の退任を記念した展覧会。日本画、陶芸、染織の教授陣による質の高い作品がこれだけのボリュームをもって見る事が出来たのは、うれしい事だ。その中で西村の「黄昏の一歩前」は、一瞬の中に潜んでいる自然が作り出す美を逃さず、さわやかな青い空と白い雲の対比が、さらなる深まりを暗示させる詩情豊かな作品であった。目の前にある物事から美を抽出し、そしてそれを表現していく。作家としての真摯な態度に敬服する。この展覧会は一般観覧者だけでなく芸術大学で教わる学生たちにとっては大いに刺激となったはずである。作品を見る機会が少ない県立芸大教授陣の展覧会を今後ともぜひ開催してほしい。
(西村立子「黄昏の一歩前」)
                                            黄金忠博