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HOME > 美術評論 > 2016 > 琉球新報2016年ネルソン・ドミンゲス展評

2016.7.12
琉球新報 展評

生命力と優しさ共存

ネルソン・ドミンゲス展

(那覇市上之屋 画廊サエラ 7/11〜7/17)

彼の作品は、恥ずかしながら、この展評依頼があり、資料として見せてもらった画集で初めて知った。
1947年、キューバのサンチアゴ・デ・クーバに生まれたネルソンは、国立芸術学校を卒業。同学校で教べんをとりながら数々の国際展受賞歴を持つ、キューバ現代美術を代表する作家の一人である。黒を基調としたキュビズム的作画法だが、硬さはなくむしろ自然で柔らかく、優しい人間味溢れる画表面である。キューバの歴史的背景から生まれるアフリカのプリミティブな造形と、ヨーロッパの伝統絵画技法がうまくミックスされているような印象を持った。
一つ一つの作品は非常に強い生命感と確かな主張を感じるが、なぜか押し付けがましくない。
また、一つの壁に複数の作品が並べられていても、圧迫感は感じない。その作品の印象から山城見信を思い起こした。通常、黒という色は陰や闇をイメージし、陰湿な暗い過去などを思い起こさせるが、ネルソンと山城の作品にはそのような陰湿さは感じない。むしろ希望とエネルギーに満ちあふれている。それは、キューバと沖縄が持つ、歴史的背景から生まれる芸術の本質が関わっているからではないだろうか?
キューバは15世紀、コロンブスによって発見され、その後スペインの支配により先住民族はほぼ絶滅し植民地とされた。その後、奴隷としてアフリカから連れてこられた人たちと混じり合い、歴史に翻弄されながら独自の文化を構築していった。世界的に知られるルンバやマンボなどのキューバ音楽は、明るく陽気な雰囲気とリズムが特徴だが、琉球音楽にも同じものを感じる。また島国であることも沖縄と共通する点である。そのようなことから、キューバと沖縄の文化や性格には同じ匂いを感じる。
 西洋的、近代的な表現方法を持ちつつも、アフリカの血を継ぐようなプリミティブ、アニミズム的精神が根付いたネルソンの作品に自然に惹かれていくのも、ここ沖縄と同じような感覚を覚えたからであろう。
100号の大作「アンゴラの詩人」は白黒のモノトーンが主の絵画だが、背景にわずかに赤や緑の色彩が見られる。体つきは人間だが、頭部は宗教行事で使う鳥の羽などで作られた冠のようなものをかぶっているように見える。足を組んで地に座り込んでいるその足先を見ると、指を重ね合わせている。静かにたたずんでいるように見えるこの人物の内側は、強烈な思いを内包していることを感じずにはおれない。しかし彼は、その土地や森など、またそこに生きる生き物、自然全体の化身ではないのだろうか?その他の作品のほとんどが人物が描かれているが、黒い輪郭線によって強烈な存在感を放つ。しかしなぜか柔らかく暖かい。
 この展覧会は、沖縄県在住の個人コレクションによるものであり、このことも非常に誇らしいことである。ネルソンの作品から、多くの共感と感動を得られた。それはどのような過酷なことがあっても、強く生き抜くという人間の強さと優しさを感じたからであろう。
黄金 忠博


ネルソン・ドミンゲス作品