2016.5.4
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琉球新報 美術月評 2016年4月 黄金忠博 新しい年度の始まった4月には、芸術の根源である人間と自然との関わり、その出発点といったことを感じ取れた展覧会を見ることが出来た。そしてそのエネルギーに潤され芸術の素晴らしさを改めて実感した月であった。 |
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生命と現実捉える
まぶいぐみ連続写真展
(4/9〜17 ギャラリー・ラファイエット)
伊波リンダと小橋川共男という世代の違う二人の写真家による、コントラストの強い展示会であったが、眼の前に現れた対象物に体が反応してシャッターを切るという観点は同じで、互いの作品を見ると、今の沖縄で起こっていることに目を向けていることに違いはない。写真は対象物がなければ自分だけでは成り立たない。だから写真には可能性と多様性を感じるという。伊波は、米軍基地内の風景を、小橋川は石川岳の自然にレンズを向ける。そこには生命と現実に向き合うという共通するものをみてとれる。どちらもジャーナリスティックな視点を超えた、写真家の想いが表出しているのである。
モノの本質を映す
根間智子「Paradigm」展
(4/8〜17 小舟舎:那覇)
根間の写真はブレていて、それが何か、どこなのかなどと見る者が懸命に探ろうとする。しかし分かることは、何かが動いていて、ぼんやりと何かがあるという気配だけである。 本来世界は動きの中にある。人が何かを認識するには、連続した動きの中から探り出すことになるが、カメラは人の眼では捉えられない一瞬を捉えて動きを止める。はっきりと映し出されることによって人が認識するのと同時に、それを概念化する。概念とモノの本質とは違うものであるから、その本質は混沌とした曖昧な状態の中にあるといえる。つまり根間のブレだ写真には、モノの本質が映し出されているといえる。モノの捉え方を考えさせられた展示であった。
豊かな感覚表出
日々のその呼吸へ 辻茉莉花 と 中村玉輝 の2人展
(4/16〜24 浜比嘉島)
改装が決まっている古民家に住み込みながら、その中から生み出される絵画と衣服を展示したこの展示会は、作家2人にとって次への展開のきっかけになったようだ。美術と生活が切り離されていない時代の、豊かな感覚と緩やかな時間の流れを感じさせる展示空間は、まるで洞窟の中にいるような印象をもった。中村の絵画は、土で板壁にプリミティブな絵画が直接描かれ暖かな印象をもつ。これに辻の破線の縫い糸が響きあう。絵画と衣服のコラボレーションは、この古民家の空間とそこでの生活があったからこそ生まれた。創作の原点を感じることができた良い展示会であった。今後の二人の活動を楽しみにしたい。
私事ではあるが先日県立美術館にて沖縄芸大同窓会主催の講演会に登壇させていただいた。今後も毎月1回社会で活躍する県芸大卒業生による講演会が行われるので、ぜひ足を運んでもらいたい。
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